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英国エリザベス朝及びジェコビアン朝における政治、社会、経済、宗教、文化の発展がウィリアム・シェイクスピアの戯曲に与えたインパクトの概略(その10)

10 一気に有名人のシェイクスピア

これといったライバルもいなかったシェイクスピアは当時ロンドンで最も人気のあった劇団(ストレインジ伯爵の一座)に所属していたこともあり、一気に頂点に登りつめ、舞台芸術家としての成功を手に入れる。1590年から1597年にかけて、「ヘンリー6世・パート1、2、3」を代表とする三部作構成の歴史劇を中心に執筆する。その一方で、イギリス史上最悪の君主にまつわるエピソードを扱った、一部で完結する「ジョン王」も書いている。これらの歴史劇に共通することは、シェイクスピアが16世紀きっての歴史家であるラファエル・ハリンシェがまとめた1577年発行の「イギリス、スコットランド、アイルランドの年代記」中の史実から、戯曲作りのインスピレーションを受けていたという点である。たとえば、ハリンシェの「公開処刑において、死刑宣告されし者はその執行直前に、観衆に向かって何か言い残すチャンスが与えられた」という記述は、「ヘンリー4世」と「リチャード3世」の中の処刑シーンで生々しく再現されている。

歴史劇執筆と並行して、シェイクスピアは1593年から1600年にかけて、10作の喜劇を公演までもっていく。喜劇のうち、戯曲の構造が最も簡単なファース(笑劇)から、人間関係が複雑に絡み合うロマンス劇まであり、主要作品としては「真夏の夜の夢」、「じゃじゃ馬ならし」、「空騒ぎ」、「お気に召すまま」、「ベニスの商人」などがある。このうち、「じゃじゃ馬ならし」は、主人公パトリキオが妻カタリナの激しい気性をたたき直す物語であるが、当時の封建的な男尊女卑といったフェミニストのテーマに加えて、結婚は持参金などのお金が絡んだ政略的なものであったところにメスを入れている。シリアスなテーマに取り組んでいるにもかかわらず、コメディーにすることによって飲み込みやすくしている。「ベニスの商人」は恋愛劇であるが、借金取りが返済不能の債務者から約束どおり、肉を削いででも返済してもらうといった契約の履行に対して、法の下の公正がどこまで適用するかなど、扱うテーマがより真摯なものになっている。

その一方で悲劇の制作としては、ローマ劇作家のセネカから影響を受けたとされる流血シーン続出の「タイタス・アンドロニカス」を初め、「ロミオとジュリエット」がある。「ロミオとジュリエット」もエリザベス朝最大の学説である「神から微生物まで、万物は一本の見えない鎖でつながっている」というグレートチェーン・アブ・ビーイングの影響を強く受けている。なぜなら、「ロミオとジュリエット」のクライマックスである、最愛の恋人ジュリエットが毒を飲んで自殺したことを知ったロミオの最初の台詞が「俺は星を憎む」だからである。

シェイクスピア劇のプロットは、史実や民話あるいは先輩作家の戯曲から借りてきている場合が圧倒的である。原案を借りてはいるが、その素材に大胆な改良を加え、舞台へのあふれるイマジネーションを駆使して、演出をよりドラマティックに工夫してみせたのである。

現代の人間と過去の人間の行動様式を比較した場合、「歴史は繰り返す」と言われるように、人間の心理の中核においてはさほど変わらないことがある。この点にシェイクスピアは着目したのであり、権力の意向をうかがう戯曲作家では手が出せないような社会問題を過去の歴史のエピソードに当てはめて戯曲にして時代を風刺したのかもしれない。当時の政治、国際情勢、事件、あるいは魔女狩りといった関心事をテーマにして、観客の心をつかめる作品を巧妙に組み立てていったのである。

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