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ジョン・ロングの「シェイクスピアの音楽理論」から見たシェイクスピアの「テンペスト」その5 とも英語塾 府中

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とも英語塾 府中 ドラマ 論文(日本語)

ジョン・ロングの「シェイクスピアの音楽理論」に基くシェイクスピアの「テンペスト」の戯曲・音楽構造の一分析(その5)

5.頻出用語の解説

当論文は以下に解説する用語を多用して理論を組み立てていく。各用語は各解説に基づいて適宜使用される。

ムード:音響デザイナーはさまざまな技術を駆使して、ドラマの観客に心理的影響を与える。たとえば、ある特定の意思を持って作成された劇中に使用される音響は観客の心情に大きな影響を与えるだけでなく、舞台で演技する役者の心情をも大きく左右する。この心情を有形無形に外部に向けて表現しているものがムードである。舞台音響デザインにおいて、各シーンのムードを特定することはドラマの持つアクションを明確にさせるという点において、この上なく重要である。ムードは感情や意識といった人間の精神面を、音そのもの、つまりは音色、音調、音質といったものの物理的な変化を利用して表現しようとするものである。

ディレクショナリティー(方向性):舞台音響の世界では効果音のディレクショナリティーを特定することで、観衆に対して舞台上で注目すべき場所はどこか明示することができる。たとえば、若い男女が愛を語り合っている場面ではサクソフォーン等の音源で作成した甘いメロディーを彼らのいる後ろに設置したスピーカーから流すことにする。そうすることで、観衆には注目すべきは彼らであることを直接的に訴えることができるだろう。逆にシアターに設置されているすべてのスピーカーを使用して、観衆の恐怖感をあおるために女性の叫び声などをミックスした曲を幕間に流すことにする。最初その曲はサラウンドで始まり、徐々にその音量を舞台後方のスピーカーに移動させ、シーンの始まる直前には舞台後方のスピーカーのみを使用する。この場合、最初のうち観衆は特に注目すべきものはないことを理解するが、音量が彼らの前方にシフトすることで舞台のどの場所を注目すれば良いのかを知ることになる。このように音響デザイナーにとってディレクショナリティーは観衆の視点をコントロールする一つの手段である。

ミュージカリティー(音楽性):舞台音響にはリズム、メロディーといった音楽性が多分に含まれている。この音楽性は主観的な側面を持つ。というのは、人々のほとんどはモーツアルトの作品をすばらしい音楽であるというだろう。その一方でニューギニアの原住民が打ち鳴らす打楽器の音楽もすばらしいという人もいるだろう。このように音楽性は主観的側面を有するが、ドラマに使用する音楽作品をデザインする上で音楽性は各シーンにマッチしているかどうかを基準にして検討されるべき性質のものである。

パンクチュエーション(アクセント、間):舞台音響のパンクチュエーションを通じて、心理的にキーポイントを観衆に伝えることも可能だ。たとえば、舞台ドラマで俳優が「きみが嘘ついているのを知っているんだ。」と言った後気まずい沈黙が続くシーンがあったとする。それまで流していたBGMをパンクチュエーションの原理を使用して、俳優の台詞の直前で瞬時に止めることで、観衆は劇的な瞬間を体験し、キーになっている台詞をより深く理解するはずだ。ドラマを解釈する上で音響デザイナーはパンクチュエーションが必要とされているシーンを見つける必要がある。その際、やろうとしているパンクチュエーションが全体のドラマの流れとリズムに溶け合っていることが理想だ。このことから、パンクチュエーションによって心理的に重要な台詞や場面の転換を観衆に理解させることが可能になってくるのである。

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