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ジョン・ロングの「シェイクスピアの音楽理論」に基くシェイクスピアの「テンペスト」の戯曲・音楽構造の一分析(その3)

3.リサーチ資料の概略

ペギー・ムニョス・サイモンド氏は『音楽の甘い誘惑:奇跡を起こすハープがかける政治的な魔力とシェイクスピアの「テンペスト」』と題して、興味深い視点で論考を書き上げている。サイモンド氏のリサーチは「テンペスト」の中で聞こえる歌が、キャラクターに対してどのような影響力があるのかに焦点を絞り、同作品中で歌とキャラクターがインタラクトする例を枚挙している。彼女のリサーチ結果はシェイクスピアが歌を使って作品の持つドラマ性を最大限に引き出し、当時のライバル作家、ベン・ジョンソンらが始めて、ブームになりつつあった仮面パフォーマンス(マスク劇)の特色を意識した作風になっていることも指摘している。

『シェイクスピアの「テンペスト」から聞こえる甘く危険な曲』の文中で、著者のジャクリーン・フォックスゴッドは戯曲の脚本を音楽的見地から分析し、特定の基準によりふるいわけ、類型化した音楽使用例を検証している。前述のサイモンド氏とこのフォックスゴッド氏には分析上いくつかの類似点があるが、フォックスゴッド氏の著述は、ドラマの持つ本来の意味とアクションにより迫っている。同著者は「テンペスト」で繰り広げられる人間の価値観が音楽によって変化し、さらには音楽がどのように調和と和解に満ちた世界を作り出しているのかについて掘り下げている。彼女のアプローチは「テンペスト」における音楽の使用の効果をいくつかの点で明らかにするものである。たとえば、同戯曲が作り出す超自然生物と魔法が混在する、ともすれば不安定で混乱に満ちた世界を唯一統率できるものは音楽であると位置づけているからである。その証拠に妖精のエリアルは、島の権威者であるプロスペローの命令をつねに音楽の力を借りながら実行している。フォックスゴッド氏によると、「音楽の持つ特殊な効果なしでは、シェイクスピアが戯曲の主要なメッセージを余すところなく伝えることはできなかっただろう」として、論考の結末に力強い理論を展開している。

当論文が理論追及したシェイクスピア研究者の一人であるピエール・イズライン氏も同様に、「テンペスト」を音楽という切り口から、戯曲の持つドラマ性を検証している。前述のサイモンド氏やフォックスゴッド氏とは反対に、イズライン氏は同戯曲における音楽の使用頻度に対して否定的な見解を示している。端的に言えば、同氏の学説は音楽の使用過多もしくは誤用によるプロダクションへの弊害の調査報告である。研究は17世紀前半イギリスで起きた清教徒が娯楽業界を敵視した行動の解説から始まり、当時のロンドンの劇場が人々に与えた影響について記録している。イズライン氏によると、質素倹約を旨とする清教徒は劇そのものだけでなく、劇中で使用される音楽にさえ批判的であり、観衆の倫理観を根こそぎ破壊していると考えていたとし、「テンペスト」で使用された音楽の質についても批判的であったと研究結果をまとめている。イズライン氏はサイモンド氏やフォックスゴッド氏の論考に対して、音楽の使用過多と誤用はプロダクションに対してネガティブな影響を与えるという点から否定的な立場をとっている。これは音楽の使用過多と誤用がドラマの意図を正確に伝えることができないという論拠によるものである。同氏は1996年のBBC(イギリス国営放送局)制作による「テンペスト」の音楽偏重による演出に失望し、戯曲の主題の取り扱いが二の次になっているとして深い憤りをおぼえている。イズライン氏の論考は音楽の偏重と間違った使用は戯曲の本質を変えてしまう危険性をはらんでいることを事実としながらも、その反対側にある適切な音楽の使用は戯曲のアクションを最大限にドラマチックなものにできるという論点を残念ながら見過ごしている。

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